断食や菜食で健康になる理由の一つが解説されています

癌と食養 ☆★☆ 自然療法による癌治療からの引用です
以下転載です

(3)低栄養状態で生きる動物のナゾ (P189~203)

● 1 食べない人々

ここまでみてきたように、草食哺乳類は、摂取した食料に含まれるカロリーと栄養素以上のものを、消化管内の共生細菌から得て生きている。

だから、完全草食で生きようとするなら、セルロース分解菌との共生が絶対に必要だし、それに特化した消化管も必要であり、人類の消化管では完全草食は不可能なはずだ。

しかし、食の問題について資料を集めていくと、どうしても、「それほど食べていない / ほとんど食べていないのに、普通に生活している」人がいるという事実にぶつかってしまうのだ。

たとえば『食べること、やめました』(マキノ出版)の著者の森美智代さんは、「1日に青汁を丼に1杯だけ」という食生活で、13年以上も健康に暮らしていらっしゃるし(ちなみに摂取する青汁の量が多いとすぐに太ってしまうそうだ)、『ほとんど食べずに生きる人』(三五館)の著者の柴田年彦さんも、1日500キロカロリーの摂取のみで1年間、健康を維持できたことをルポしている。

同様に、比叡山延暦寺の千日回峰行(せんにちかいほうぎょう)も、栄養学的には自殺行為としか思えないものだ。
 千日回峰行とは、「1千日にわたり、食事は蕎麦かうどん1杯、ゴマ豆腐半丁、ジャガイモの塩蒸し2個を1日2回食べるのみ。1日30~80km を走破し、700日以後に9日間の断食・断水・断眠を行う」という凄まじい(すさまじい)荒行である。

これは平安時代の僧の相応(そうおう)が始めたとされるが、1100年間で、達成者はわずか47名(うち3名は2回達成)という至難の修行である。

科学的に考えると、これらの人々は絶対に死んでいるはずだし、生きていたとしても、骨と皮の寝たきり状態になってもらわないと、栄養学の専門家が困ってしまう。千日回峰行は毎日、フルマラソンの全コースを走破しているようなものだが、フルマラソンを4時間で完走するだけで2400キロカロリーが消費されるのだ。ましてや、1日80km を踏破するとなったら、必要カロリー数は2400キロカロリーどころではないはずだ。

千日回峰行を行なう僧の運動量の消費カロリーと、食事から得られるカロリーを計算すると、500~600日で体重がゼロになってもらわないと困るし、そうでなければ生理学が崩壊してしまう。

このような常識はずれの現象をつきつけられた時、大多数の反応は次のようなものだろうし、以前の私も同様に捉えていたと思う。

◆ これはごく少数の特異例にたまたま起きた例外的奇跡である。
  ◆ 人が見ていないところで本当は食べているんじゃないの?
  ◆ これは超能力と同じで、手品、トリックのたぐいに決まっている。

だが、これまでに説明してきた知識を駆使すると、不可能でもインチキでもない可能性が浮かび上がってくる。

● 2 肉食獣パンダがタケを食べた日

人間が青汁だけ、あるいは極端な低栄養状態で生きているという現象を考える手がかりとして、肉食哺乳類が草食哺乳類に変化した例を取り上げてみよう。

それがパンダだ。

パンダがもともとは肉食だったことは、腸管の構造からほぼ確実とされている。
 しかし、何らかの原因で、本来の生息地を追われて高緯度地域に移動し(人類の祖先がパンダ本来の生息地に侵入して、パンダを追い出したという説が有力)、そこでタケやササという新たな食料に適応したとされている。高緯度地域にはエサとなる動物が少ないため、動物以外のものを食物にするしかなかったからだ。

しかし、他の哺乳類同様、パンダはタケ(=セルロース)を分解する酵素を持っていないため、以前から「タケを消化することができないのになぜ、タケだけを食べて生きていけるのか」は長らく謎とされてきた。

その謎が解明されたのはここ数年のことだ。パンダの消化管内から、他の草食動物の腸管内に生息しているのと同じセルロース分解菌が発見され、タケ食で生きていけるメカニズムが解明されたのだ。

ちなみに、パンダの腸管内の細菌のうち、13種は、すでに知られているセルロース分解菌であるが、7種はパンダに特有の細菌と報告されている。

しかし、本来肉食である動物が、タケのみを食べる生活に簡単に切り替えられるのだろうか。肉食動物の腸管に、肉食動物とは無縁のセルロース分解菌が、そんなに都合よく住み着いてくれるものだろうか。

こういうことを考える時、私たちはともすれば「進化とは数万年、数十万年かけて起こるものだ。パンダだって数万年かけてタケのみを食べる生活に適応したのだろう」と考えがちだ。

だが、人間に追われて高緯度地域に避難したパンダにとって、今日明日、食物にありつけるかどうかは生死を分ける問題なのだ。何かを食べて栄養をとらなければ、数日後には確実に餓死するしかないのだ。数万年かけてタケ食に適応すればいい、というのは机上の空論で、獲物を見つけられない肉食パンダにとっては、数日以内にタケを食べて栄養を得なければ死が待っているのだ。

しかし、肉しか食べていなかったパンダがタケを食べたところで、それを消化も吸収もできず、これまた死を免れることはできない。

● 3 細菌は地球に遍在する

地球は細菌の王国である。成層圏から、地下10km の岩石中にまで、さらに深海底にいたるまで、細菌が存在しないところはない。ようするに、動物のあらゆる生活環境に細菌は遍在している。

だから、野生動物がエサを食べる際に、エサには必ず細菌が付着しているし、動物はエサとともに細菌を飲み込んでいることになる。野生動物が、食物とそれに付着している1ミクロンの細菌を分離することは、原理的に不可能なのだ。

もちろん、動物のほうも「エサと一緒に細菌を食べてしまう」問題には対策を講じている。口から入った細菌の大半は胃の胃酸で分解されるし、そこをくぐり抜けて小腸に到達しても、細菌の増殖阻止作用を持つ胆汁という強敵が待ち受けている。

ようするに、食物に付着して細菌が侵入する危険性は想定の範囲内で、動物は最初から多重バリアを準備しているのだ。

しかも、多重バリアを突破して大腸に到達できたとしても、大腸にはすでに、腸管常在菌がびっしりと住み着いて、高度に組織化された生態系を作っている。新参者の外来細菌が入り込もうとしても、すき間すら残っていない。

また、腸管常在菌は互いにネットワークを作っていて、外来菌、とくに宿主に病気を起こす病原菌の侵入に対しては、一致団結してそれを排除しようとする。腸管常在菌にとっては、腸管は唯一生存できる環境だから、宿主に害をなす細菌は敵であり、彼らは必死になって人間の健康を守ろうとするのだ。

だから、口から入ってきた細菌はほとんど排除され、体内に定着することはない。
 しかし、それでも、細菌は食物を介して次々と入ってきて、一部は確実に大腸に到達している。腸内常在菌たちが外来菌排除機能を持っていることが、なによりの証拠だ。外来菌が口から入ってこなければ、そもそも排除機能を維持する必要はないからだ。

● 4 草食パンダの誕生

ここで、人間にすみかを追われ、高緯度地域にたどり着いたパンダに話を戻す。
 その地域には、これまでパンダがエサとしてきたような動物は少なく、肉食を続けることは不可能だった。何日間も絶食状態が続いたパンダはそこで、生えているタケやササを口にしたのだろう。

もちろん、パンダはセルロースを分解できるわけではなく、タケをいくらたくさん食べても、栄養にはならない。
 だが、その他に草食動物がいるかぎり、セルロース分解菌は必ず存在する。草食動物の消化管内にいる常在菌(=セルロース分解菌)で、排泄物と一緒に外に出てしまった細菌だ。

これらの細菌は当然、タケの表面にも付着していて、パンダはタケとともに、これらの細菌も摂取する。そのうちの大部分の細菌は、胃酸で消化されてしまうだろうが、一部の菌は生きたまま、タケの破片とともにパンダの大腸に運ばれる。

ここで、パンダの大腸に到達したセルロース分解菌の身になって考えてみよう。
 細菌は、温度や酸素濃度などが生息条件から大きく外れていなければ、水と微量の栄養分で生存・増殖できる生物である。つまり、セルロース分解菌の側からすると、パンダの大腸も、その他の草食動物の大腸も、環境的には違いはわずかだ。それこそ、タケの葉の表面に比べたら「住み慣れた環境」といっていいくらいだろう。あとはパンダがタケやササを食べてくれるのを待つだけだ。

また、前述のように肉食動物の腸内細菌は、草食動物の腸内細菌に比べると圧倒的に数も種類も少ない。肉食動物はそもそも、腸管内共生細菌に消化や栄養素付加を委ねている部分が少なく、常在菌の数も種類も多数は必要としないからだ。これは肉食時代のパンダも同様だったと考えられる。

おまけに、本来のすみかを追われたパンダは、エサを捕ることができず、絶食状態が続いていたから、腸内細菌は極限状態まで少なくなっていたはずだ。

つまり、新参者のセルロース分解菌にとっては、競合相手が極端に少ない状態だ。これなら、パンダの腸管内でも、セルロース分解菌は生息域を拡大できるはずだ。

そして、セルロース分解菌にとっても、パンダの腸管に潜り込めたのは幸運だったはずだ。何しろ彼らは「哺乳類の腸管」でしか生きていけない生物であり、自然界に放り出されたら死滅するしかないからだ。腸管常在菌は基本的に嫌気性菌であるが、腸管の外の世界は酸素でいっぱいだからだ。

つまり、腸管以外の環境は、彼らにとって不毛の荒野であり、潜り込めさえすれば、ウマの腸管だろうが羊の腸管だろうが、パンダの腸管だろうが人間の腸管だろうが、変わりはないはずだ。競合する細菌が少なく、宿主が植物を食べてよく噛んで飲み込んでくれさえすれば、そこでコロニーを作れるチャンスがある。

そして、肉食獣パンダの大腸に、噛み砕かれたタケとともに到達したセルロース分解菌は、それまでしてきたようにセルロースの分解を始め、短鎖脂肪酸やビタミンを分泌し始める。彼らにとっては、日常が戻ったようなものだ。

そしてそれらは、パンダの栄養源となった。新たなすみかでも肉食の習慣を捨てようとしなかったパンダは滅び、タケやササという未知の食物を口にしたもののみが、生き延びることができたと想像される。

もちろんタケやササだけ食べているパンダは、タンパク質(アミノ酸)をどこから調達しているのかという疑問だ残る。残念ながら、現時点でのパンダに関する研究ではこの謎を解き明かしてくれるものはなく、今後の研究を待ちたいと思う。

いずれにしても、肉食パンダが短期間に草食パンダに変身したことは事実である。しかも、その変身は1週間程度の短い日数でなしとげられたはずだ。食を絶たれた肉食パンダが生きられるのはそのくらいが限界だからだ。この変化が現実に起きたのであれば、他の動物に起きても不思議はない。

● 5 1日青汁1杯の謎解き

前述の「1日に青汁1杯」の森さんの著書によると、「腸内細菌叢を調べてみると人間離れしており、草食動物の牛のそれに近い」とある。パンダの例を見てもわかるように、森さんが、青汁(=粉末化されたセルロース)だけでなく、セルロース分解菌も一緒に飲み込んだか、あるいは人間の腸管にわずかに存在するセルロース分解菌が、森さんの腸管内で優勢種となったと考えれば説明が付く。

じっさい、人間の結腸内の腸内細菌には、セルロース分解能を持つものがわずかながらいて、粉末状にしたセルロースを服用すると、100%近い効率でセルロースを利用できる、という研究もあるようだ。

森さんはまず最初に、病気治療のために絶食療法をされたようだ。この期間に大腸内は貧栄養状態となり、腸内常在菌の数も種類も減少する。

そこで青汁を飲む。この時、経口的にセルロース分解菌が入るか、腸管内のセルロース分解菌が残っていれば、奇跡が起こる。粉末状のセルロースは、セルロース分解菌にとって最適の栄養源だからだ。

おまけに、この大腸には他の細菌は少ないし、しかも彼らは貧栄養状態で青息吐息だ。そんななかで宿主は青汁のみを摂取してくれるのである。これはセルロース分解菌にとっては天国のような環境といえるだろう。

このようにシミュレートしてみると、① 最初に絶食・断食していたこと、② その後に青汁単独食にしたことが、その後の「青汁のみ生活」を可能にしたと考えることができる。

なかでも、前もって絶食・断食していたことが重要だったはずだ。いきなり青汁単独摂取を始めたとしても、セルロース分解菌が他の腸内細菌を圧倒して優勢種に切り替わるには時間がかかるだろうし、その切り替え時間の間は宿主(=人間)は貧栄養状態であり、ほとんどの場合は宿主がダウンしてしまうからだ。しかし、事前に絶食状態にしておくと、体は糖新生と脂肪酸分解のみで維持されて、貧栄養状態でもしばらく生きられる。その間に、セルロース単独代謝系をゆっくりと完成させればいい。

では、千日回峰行の食事の場合はどうだろうか。おそらくこの場合も、千日回峰行に入る前の食生活が鍵を握っていると思われる。つまり、行本番に入る前に、断食するか食事量を減らして貧栄養に体を慣らし、この準備期間のうちに腸内細菌の種類を切り替え、同時に栄養の吸収効率と代謝効率を高めていくわけだ。

そして、そのような助走期間の後に、千日回峰行生活に突入するわけだが、この準備期間での切り替えに成功した者のみが行を達成できたのだろうし、行を2回達成した3名の人たちは、普段の生活ですでに切り替えが済んでいて、その延長線上で千日回峰行に挑んだと考えると納得がいく。

もちろん、「1100年間で達成者はわずか47名」というのは、その切り替えは決して不可能ではないが、極めて困難であることを示している。だから、私たちがいきなり千日回峰行に挑戦したり、この食生活に切り替えるのは、自殺行為でしかない。

千日回峰行に挑むなら、前もって「千日回峰行仕様」の体に切り替えておく必要があり、そのためには、日常の食生活も、事前に千日回峰行様式に切り替えておかなければいけないはずだ。

このように、食生活が腸内細菌・腸内環境を変えている実例が、科学雑誌『ネイチャー』2010年4月7日号に掲載されている。海藻の細胞壁を分解する細菌の酵素が、日本人の大腸から見つかった、というフランス人生物学者の論文である。

日本人は世界でもっとも海藻を食べる人種だが、おそらく、生で食べた海藻に海藻分解細菌が付着していて、それが海藻を日常的に食べる食生活のなかで排除されずに定着したという可能性が浮かび上がってくる。

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